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コトノハヤ徒然

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02.22 Tue

今日はカレー曜日。

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「自分に用?ああ、なんか通り魔とかではなさそうだ」

 目の前に現れた影を見て。女は何だか可笑しくなって、笑った。

「あー。あれですか。お前、刺客ってことか」

 彼女は淡々とそう言って、にこにこと近づいた。
 殺し屋を自主廃業してからは、こういった刺客が現れることもしばしばである。もう慣れっこだと言っても良い。
 ゆっくりと歩み寄るその挙措が、あまりに自然なので、その刺客が思わず自らの仕事を忘れてしまったほどだ。

「そうか、そうか。それじゃ。」

 す。と彼女の手がスカートに伸びる。

「死んでもらうから。…自分、殺されるのは困るし」

 ひゅ。と短く、風を切る音。
 数条の光芒が月明かりに跳ね飛び、刺客の目と、喉と、胸とに深く深く突き刺さる。
 あっという間だった。あまりにあっさりとしている。
 もし目を凝らす暇があったなら、女が寸秒の間に、銀色の長い針を何本も投じたことがわかったかもしれない。
 ざく。鈍い音がして、肉が抉れる。突き破られた動脈から鮮血が吹き上がる。
 声を上げる間もなく、武器を抜く暇もなく、刺客は倒れた。

「ふう。面倒なことだな」

 嘆息しつつ、頬についた返り血を指でふき取る。

「…弱い。しかも、くたびれもうけだ。服が汚れた」

 即座に冷酷に吐き捨てる。
 しばらく、月に見下ろされて。
 感慨もなく足下の死体を検分していた女が、弾かれたように振り返った。何かと思いきや。

「あ。大変。早く帰らないと、あいつが作る夕飯を食べ損ねちゃう」

 倒れた刺客から針を抜き取り、刺客の服で血をぬぐうと鞘にしまう。そのまま、くるりと踵を返した。

「あいつの夕飯を食べ損ねたら、一大事。すごく美味しいのに。早く帰らないと」

 彼女は急いで走り出した。
 そこには一つ、死体だけが残された。



 笑う三日月の下。

「おかえりー…っておいなんだ、お前、それ!」
「大丈夫、自分の血じゃないよ。心配した?」
「誰がお前の心配するかよ。ってかそういう問題じゃねーんだよ、お前まさか通り魔やってきたんじゃねーだろなあ」
「何でもいいじゃないか。変な男だなー。其れより、夕飯は何?今日はカレーか?」

 町の一角に、平穏な夕食の時が訪れようとしていた。
 春も間近。朧な月が笑っている。