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コトノハヤ徒然

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04.18 Wed

SSSの掃き溜め2。

北方の日々。
結構ながいこととまっちゃっている固定SWも、そのうちまた動くといいね。
やはり例によって生活描写のSSが、追記のほうにかいてあります。

【薬師】

女性の片手の平に収まる程度の、小さな陶器の器。
青い小花柄の蓋が、ランタンの光を反射してなめらかに光っている。

机上に別々に置かれた蓋と器の横で、彼は乳鉢にいくつかの薬草を練っていた。
暖炉にかけられた小鍋が沸き立つかすかな音を背景に。
暗い窓外では、しんしんと音もなく雪が降っていることだろう。

この街は、寒地にあるにも関わらず、
大地から湧き出す豊富な湯の恵みによって、ふんだんに湯が使える。
実に多幸な環境とも言えるが、温かな湯と寒冷な気候の差ゆえに、
雑務に立ち働く者の手は存外に荒れやすく、皹も目立つ。

――冒険から学ぶことは多い。

日常を冒険者の宿の雑用として働きつつ、たまに冒険に出る彼は、
そうして仕入れた知識で膏薬作りを試みているのだった。
集中した動きで混ぜ棒を繰る指先には、たいていの使用人がそうであるように皹がたえない。


一連の素材、薬草をいれ、

「仕上げは、これかな」

箱中に並ぶ瓶から一つを選び、香油を一滴垂らす。
温まった空気で満ちた室内に、ふわりと花の匂いが香った。
とろみを増した鉢の中身を器にうつしかえて、作業は終わりである。
少し経って冷えれば軟膏と呼べる形状になろう。

「やれやれ」

独りごちて、自分の指先に目を落とす。皸からかすかに血が滲んでいる。
酒場の仕事に専念すると、こうである。

――こうなると、何だか冒険に恋しさを覚えもする。

淡泊な彼は微かに沸いた珍しい感情をおかしく思いながら、
翌朝の食事の仕込みに入るべく立ち上がった。

客――であり仲間である人たちの姿は、当然ながらまだない、静まり返った深夜の酒場。
暖炉の薪がはぜる音。

――冒険の再開の夢を見て、街は眠る。