FC2ブログ
Top Page > > 風。

コトノハヤ徒然

--無断転載禁止--
2019 12123456789101112131415161718192021222324252627282930312020 02
04.01 Fri

風。

wind.png


「ここをずーっと、まっすぐいくと、どこにいくのー?」

 この大きな町から、見えなくなるぐらい遠くまで続いている道。
 これは、鉄道…大きな鉄の塊が走る道で線路というらしい。前に聞いたことがあった。

「うーん…何処って言われても…そうだなあ、遠くに行くんだよ。方角的には東の方だな」
「遠くにいくの」
「そうそう。ずっと遠くに。もっと、ずっといったら、他の国に行くぞ」
「他の国。すごーい。他の国、どんなとこだろうねー?」
「色んな国があるからなあ。まあ兎に角、馬鹿みたいに遠いだろうな」
「…歩くと、遠いかな?」
「遠い遠い。歩くなんて馬鹿なこと考えない方がいいぞ」

 ぼんやりと視線を当てると、ずっとずっと遠く。草原と森の向こうに消える線路。
 遠く、遠くには何があるのだろう。
 この向こうには、遠くには、何があるのだろうか。
 人が暮らしているのだろうか。怖いものはあるのだろうか。楽しいものはあるのだろうか。

「うにー……ちょっと、行ってみたい」

 は、なんだって?と聞き返す店主に、あれやこれやと動作を交えて説明する。
 要領のよくない説明を纏めるには、この一言で済む。
 つまりは、遠くに、行ってみたくなったということ。

「というわけで、旅に出るんだよー。遠いとこにいってくるねー」

 あっという間に旅の支度を整えて、呆気にとられている店主に手を振って宿を出た。
 遠くに行こう。
 また、旅に出よう。
 ずっと此処に居るのも面白かったけれど。旅に出たくなったのだから仕方ない。
 行きたい気持ちを止めようとは、思わない、だから。

「いってきまーす♪」

 止まることを知らない、遊び流れ続ける風のように。
 旅に出る。そういう、ことにした。




「…行っちまったかあ」

 今日の昼前、ちょうど誰も居ない酒場でのことだ。その娘は、愛用の竪琴をもてあそびながら、唐突に線路の話をし出した。
 そして店主の話を目を輝かせて聞いていたかと思うと、なれた手つきで手早く全ての荷物をまとめ。
 戻るかどうかも言わずに、何を言う間もなく、飛び出していったのである。
 店主は嘆息して一人ごちる。

「遊びをせんとや生まれけん…ってのは、まさにあいつらみたいなののことを言うんだろうな。遊ぶために、生まれてきた連中だ」

 酒場の誰に挨拶するでもなく、誰を気遣うでもなく、風のように行ってしまった。
 今は、この青い空の下の、どの辺にいるのだろうか。
 いずれ、もしかしたら。諸手に土産などたくさん持って、ひょっこり戻ってくるかもしれない。

 こうして旅立っていった人間を、店主は自分の仕事ゆえに沢山知っていた。
 慣れた仕事、よくあることとは言えども、全く慣れきってしまえる類のことでもなく。
 かすかな寂寥と、心なしか感じる竪琴の音の残滓。
 
 静かな宿の扉が、風で揺れていた。
※エイプリルフールとは関係ありません。
 絶妙なことに、4月1日とタイミングがあってしまったので、なんか妙な感じになりました^^;
 ほんとは昨日中の更新を狙っていたのですが。
 絵に時間がかかったー。うにーぷー。

 これでこの子は事実上引退です。
 また会えるかもしれないし、そうでないかもしれないし。